第七章④ 決算整理(1)売上原価の算定/貸倒引当金/減価償却
決算整理の事例
決算整理の基本事例を紹介していきます。
まずは、売上原価の算定、貸倒引当金の設定、有形固定資産の減価償却を紹介します。
どれも実務で役立つ知識になりますから、しっかり考え方と処理を理解しましょう。
売上原価の算定
仕入れた商品は、すべての商品が売れるわけではなく、いくらか売れ残るのがふつうです。
このため、決算整理において、当期に仕入れた商品を「売り上げた商品」と「売れ残った商品」に整理することになります。
売り上げた商品は「売上原価」、売れ残った商品は「繰越商品(くりこししょうひん)」となります。
繰越商品とは、来期に繰り越して売る商品という意味です。
当期に仕入れた商品の区分 | 勘定項目 |
売り上げた商品 | 売上原価 |
売れ残った商品 | 繰越商品 |
具体的にみていきましょう。
【決算整理事例1】 ボールペン100,000円分を掛けで、仕入れた。
借方 | 貸方 |
仕入 100,000 | 買掛金 100,000 |
決算整理のときの在庫状況はつぎのとおり。
□ 売り上げた商品 70,000 □ 売れ残った商品 30,000
【決算整理事例1】では、在庫があるため決算整理の必要があります。
・決算整理仕訳は、つぎのとおりです。
借方 | 貸方 |
繰越商品 30,000 | 仕入 30,000 |
仕入れた商品のうち、売れ残った商品の30,000円は「繰越商品」となり、来期に売り上げるべき商品となります。
なお、繰越商品は、「資産グループ」の勘定科目になります。
貸方にある「仕入」は、取消を意味します。
決算整理によって、仕入を「取消(とりけし)」、繰越商品として、翌期へ繰り越すわけです。
なお、売上原価は、つぎのように計算されます。
仕 入 決算整理による取消 売上原価
100,000 - 30,000 = 70,000
[参考]
前期に売れ残った商品が20,000円あった場合、当期の最初に以下のような仕訳をします。
借方 | 貸方 |
仕入 20,000 | 繰越商品 20,000 |
すなわち、仕入勘定に前期の売れ残り商品を加え、今期に売り上げる商品とする、という意味です。
貸倒引当金の設定
得意先の倒産などの事情で、その得意先に対する売掛金や受取手形が回収できなくなることを貸倒(かしだおれ)といいます。
取引先の経営状況はさまざまです。
経営状態が良い会社ばかりなら問題ないのですが、経営状態があまり良くない会社もあります。
このため、会社は「売掛金」や「受取手形」が約束した日に確実に入金されるか心配です。
仮に1,000,000円の売掛金がある取引先が倒産したら、1,000,000円のお金を失うことになります。
貸倒れが発生したときは、回収不能になった売掛金や受取手形を減少させます。
なお、回収不能になった売掛金や受取手形が当期に発生したものなのか、前期以前に発生したものなのか、
によって、借方に計上する勘定科目は異なります。
まずは、当期に発生した売掛金が貸し倒れたときの仕訳をみていきましょう。
【仕訳例】 得意先が倒産し、同社に対する売掛金100,000円(当期に発生)が貸し倒れた。
借方 | 貸方 |
貸倒損失 100,000 | 売掛金 100,000 |
貸倒引当金の設定
決算整理では、貸倒れに備えて、決算整理では、あらかじめ回収リスクを費用計上することが認められています。
つまり、回収リスクに備えて金額を計上することが認められています。
この金額を「貸倒引当金(かしだおれひきあてきん」といいます。
この仕訳の相手勘定科目は「貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)」となります。
「引当」というのは、将来のためにあらかじめ積み当てておく、ということです。
つまり、資産を取り崩して積み当てておくという意味です。
具体的な決算整理仕訳はつぎのとおり。
【仕訳例】1,000,000円の売上債権に対して、2%の貸倒引当金を設定した。
借方 | 貸方 |
貸倒引当金繰入 20,000 | 貸倒引当金 20,000 |
(注)1,000,000×2%=20,000円
「貸倒引当金繰入」は費用グループ。「貸倒引当金」は、資産の減少と考えてください。
貸倒引当金の設定にあたり、前期末に設定した貸倒引当金が残っている場合があります。
このときは、当期に設定すべき金額と期末残高との差額を追加で貸倒引当金を設定計上します。
これを差額補充法といいます。
【仕訳例】決算において、売掛金残高100,000円に対し、2%の貸倒引当金を設定する。
なお、貸倒引当金の期末残高は、500円である。
借方 | 貸方 |
貸倒引当金繰入 1,500 | 貸倒引当金 1,500 |
(注)当期の設定額:100,000円×2%=2,000円
貸倒引当金の期末残高:500円
貸倒引当金繰入:2,000円ー500円=1,500円
【参考仕訳事例】
【仕訳例】 得意先が倒産し、「同社に対する売掛金5,000円(前期に発生)が貸し倒れた。
なお、貸倒引当金の残高は、2,000円である。
借方 | 貸方 |
貸倒引当金 2,000 貸倒損失 3,000 | 売掛金 5,000 |
前期以前に貸倒処理した売掛金や受取手形を当期に回収したときは、回収額を現金等で処理するとともに、償却債権取立益を計上します。
【仕訳例】 前期に貸倒処理した売掛金2,000円を当期に現金で回収した。
借方 | 貸方 |
現金 2,000 | 償却債権取立益 2,000 |
有形固定資産の減価償却
車や建物などの有形固定資産は、使えば使うほど古くなります。
すなわち、使うほど、資産の価値も減少します。
決算整理では、当期中に生じた価値の減少分を見積もり、その分だけ有形固定資産の帳簿価値を減少させます。
その価値の減少分を費用として計上します。
この費用を「減価償却費」といいます。
「消しゴム」をイメージしてください。
消しゴムは使えば使うほどどんどん小さくなり、やがてなくなります。
使ってなくなった部分が資産価値の減少部分である「減価償却費」というわけです。
そして、残っている消しゴムが、現在の「資産の価値」というわけです。
減価償却費を計算するさいに知っておくべき3要素
取得原価 | 有形固定資産の購入にかかった金額 |
耐用年数 | 有形固定資産の利用可能年数 |
残存価額 | その有形固定資産を耐用年数まで使用したときに残っている価値 |
具体的にみていきましょう。
【例】 車を1,000,000円で購入。償却期間5年。5年後の下取り価値はゼロ。
この場合の減価償却費は、つぎのように計算されます。
購入価格(1,000,000円)÷償却期間(5年)=減価償却費(200,000円)
1年間に200,000円の資産価値が減少することになります。これを減価償却費200,000円として計上するわけです。
減価償却費の計上にともなう決算整理仕訳はつぎのとおり。
借方 | 貸方 |
減価償却費 200,000 | 車両運搬具減価償却累計額 200,000 |
減価償却費は「費用グループ」になります。
貸方に資産を減少をあらわす「車両運搬具減価償却累計額」が記入されます。