初級簿記⑥ 仕訳とは何か
仕訳(しわけ)とは何か
簿記の学習において、もっとも大切な「仕訳」について解説していきます。簿記の苦手な人は、この仕訳で、わからなくなるケースが多いようです。しっかり、学んでいきましょう。
仕訳は、慣れると無意識に処理できます。でも、慣れないうちは悪戦苦闘した思い出があります。私もあたらめて、仕訳の基本を再確認したいと思います。
□取引を仕訳することの意味を知る
ビジネスで、簿記がその存在価値を維持し続けている理由の一つは「仕訳」(しわけ)の存在です。
仕訳とは、何か?
仕訳とは、簿記が生みだす「ことば」です。
しかも、仕訳によって、とんな複雑な取引も単純に整理できます。
仕訳を見れば、それがどのような取引なのか、を推理できます。
具体的にみていきましょう。
たとえば、
「現金10万円を、銀行から借りた」
という取引の仕訳は、つぎのようになります。
借方 | 貸方 |
現金 100,000 | 借入金 100,000 |
仕訳で、複雑な取引も単純に整理できます。
これは、ビジネスで、非常に効率的です。
仕訳は「簿記のフォーム」に「勘定科目」と「金額」を記入し、意味を生み出します。
前述のとおり、つぎの仕訳は、「現金10万円を、銀行から借りた」ことを意味しました。
借方 | 貸方 |
現金 100,000 | 借入金 100,000 |
では、この勘定科目が反対になったとき、どのような意味に変わるでしょうか。
借方 | 貸方 |
借入金 100,000 | 現金 100,000 |
この仕訳は「10万円の借入金を現金で返済した」という取引になります。
このように簿記のフォームに「勘定科目」と金額を記入することで、意味を生みだすのが仕訳です。
仕訳は「借方」から「貸方」へ勘定科目が動くことで全く違う意味にもなります。
仕訳とは、簿記のフォームと勘定科目が生みだす「簿記のことば」なのです。
それでは、なぜ仕訳によって取引内容の省略化ができ「簿記のことば」が生まれるのでしょうか。
それは、仕訳には、決められた「仕訳のルール」があるからです。
それでは、つぎに仕訳のルールをくわしくみていきましょう。
仕訳のルールを学ぶ
□仕訳ルールは覚えるのみ!
5つのグループごとの仕訳ルール
勘定科目に5つのグループがあることは、すでに説明しました。
あらためて、5つのグループとは、資産・負債・純資産・収益・費用でした。
仕訳は、各グルーブの「仕訳ルール」を覚えることから始まります。
理屈を考えず、まず、基本ルールを覚えましょう!
水に入らなければ永遠に泳ぎをマスターすることはできません。
簿記も「仕訳のルール」を覚えなければマスターできないのです。
□「資産」グループの仕訳ルール
資産は、借方に「増加」、貸方に「減少」を記入します。
借方 | 貸方 |
増加 | 減少 |
「現金」は、資産グループです。
この「現金」をつかって、資産グループの増減をみていきましょう。
現金が増加したときは「借方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
現金 |
現金が減少したときは「貸方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
現金 |
□「負債」グループの仕訳ルール
負債は、借方に「減少」、貸方に「増加」を記入します。
借方 | 貸方 |
減少 | 増加 |
「借入金」は、負債グループです。
この「借入金」をつかって、負債グループの増減をみていきましょう。
借入金が増加したときは「貸方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
借入金 |
借入金が減少したときは「借方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
借入金 |
□「純資産」グループの仕訳ルール
純資産は、借方に「減少」、貸方に「増加」を記入します。
借方 | 貸方 |
減少 | 増加 |
「資本金」は、純資産グループです。
この「資本金」をつかって、純資産グループの増減をみていきましょう。
資本金が増加したときは「貸方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
資本金 |
資本金が減少したときは「借方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
資本金 |
□「収益」グループの仕訳ルール
収益は、借方に「取消(減少)」、貸方に「発生(増加)」を記入します。
借方 | 貸方 |
取消 | 発生 |
「売上」は、収益グループです。
この「売上」をつかって、収益グループをみていきましょう。
売上が発生したときは、「貸方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
売上 |
売上が取消になったときは、「借方」に記入されます。
たとえば、売り上げた商品が、品違いなどにより返品された場合です。
借方 | 貸方 |
売上 |
□「費用」グループの仕訳ルール
費用は、借方に「発生(増加)」、貸方に「取消(減少)」を記入します。
借方 | 貸方 |
発生 | 取消 |
「仕入」は、費用グループです。
この「仕入」をつかって、費用グループをみていきましょう。
仕入が発生したときは、「借方」に記入されます。
借方 | 貸方 |
仕入 |
仕入が取消になったときは、「貸方」に記入されます。
たとえば、仕入れた商品を品違いなどで返品した場合です。
借方 | 貸方 |
仕入 |
仕訳の3つのステップ
□仕訳には、3つのステップがある
仕訳は、3つのステップを踏んでおこなわれます。
慣れてくれば、無意識にできるようになりますが、最初のうちは、この3つのステップを意識しながら仕訳しましょう。
✓ステップ1 2つ以上の「勘定科目」を決める
✓ステップ2 勘定科目が、どのグループになるかを確認
✓ステップ3 勘定科目を「借方」と「貸方」に分ける
□3つのステップで、基本的な4つの取引を学びましょう。
ここでは、基本となる4つの取引を紹介していきます。
ゆっくり3つのステップを確認しながら、学んでいきましょう。
なお、仕訳を行う場合、借方と貸方の金額は、かならず同じになります。
これを「貸借平均の原則(原理)」といいます。
[取引例1]
建物3000万円を購入し、現金で支払った。 |
✓ステップ1 2つ以上の「勘定科目」を決める
太字とアンダーラインで示した「建物」と「現金」の2つの勘定科目を決めます。
✓ステップ2 勘定科目が、どのグループになるかを確認
「建物」―資産グループ。「現金」―資産グループ
✓ステップ3 勘定科目を「借方」と「貸方」に振り分ける
「建物」を購入したので「資産」の増加です。現金で支払った、ので「資産」の減少です。
資産グループの仕訳ルールは、つぎのとおりでした。
「資産」グループの仕訳ルール
借方 | 貸方 |
増加 | 減少 |
これらの3つのステップの結果、つぎのような仕訳を行うことができます。
借方 | 貸方 |
建物 30,000,000 | 現金 30,000,000 |
[取引例2]
銀行から現金100万円を借りた。 |
✓ステップ1 2つ以上の「勘定科目」を決める
太字とアンダーラインで示した「現金」と「借入金」の2つの勘定科目を決めます。
✓ステップ2 勘定科目が、どのグループになるかを確認
「現金」―資産グループ。「借入金」―負債グループ
✓ステップ3 勘定科目を「借方」と「貸方」に振り分ける
銀行からお金を借りたことにより「現金」が増えたので「資産」の増加です。
銀行からのお金を借りたので「借入金」という「負債」グループの増加です。
負債グループの仕訳ルールは、つぎのとおりでした。
・「負債」グループの仕訳ルール
借方 | 貸方 |
減少 | 増加 |
これらの3つのステップの結果、つぎのような仕訳を行うことができます。
借方 | 貸方 |
現金 1,000,000 | 借入金 1,000,000 |
[取引例3]
商品200,000円を売上げ、代金は現金で受け取った。 |
✓ステップ1 2つ以上の「勘定科目」を決める
太字とアンダーラインで示した「現金」と「売上」の2つの勘定科目を決めます。
✓ステップ2 勘定科目が、どのグループになるかを確認
「現金」―資産グループ。「売上」―収益グループ
✓ステップ3 勘定科目を「借方」と「貸方」に振り分ける
商品を売上げたので「売上」が増えます。
これは、「収益」の発生です。
代金は、現金で受け取ったので、「資産」の増加です。
収益グループの仕訳ルールは、つぎのとおりでした。
「収益」グループの仕訳ルール
借方 | 貸方 |
取消 | 発生 |
これらの3つのステップの結果、つぎのような仕訳を行うことができます。
借方 | 貸方 |
現金 200,000 | 売上 200,000 |
[取引例4]
商品100,000円を仕入れ、現金で支払った。 |
✓ステップ1 2つ以上の「勘定科目」を決める
太字とアンダーラインで示した「仕入」と「現金」の2つの勘定科目を決めます。
✓ステップ2 勘定科目が、どのグループになるかを確認
「仕入」―費用グループ。「現金」―資産グループ
✓ステップ3 勘定科目を「借方」と「貸方」に振り分ける
商品の「仕入」は、「費用」の発生です。
代金は現金で支払ったので「資産」の減少です。
費用グループの仕訳ルールは、つぎのとおりでした。
「費用」グループの仕訳ルール
借方 | 貸方 |
発生 | 取消 |
これらの3つのステップの結果、つぎのような仕訳を行うことができます。
借方 | 貸方 |
仕入 100,000 | 現金 100,000 |
【参考メモ】
簿記における仕訳は、取引をあらわすものです。
しかし、ビジネス上の取引であるオフィスの賃貸借契約は、仕訳の対象になりません。
なぜなら、契約を締結した段階では、資産、負債、純資産、あるいは、収益、費用の増減がないからです。
一方で、工場を火災で焼失した場合は、ビジネスで取引とは、いいません。しかし、簿記では、工場という資産が焼失したために取引として取り扱います。
まとめ
- 仕訳とは、簿記が生み出す「ことば」である
- 仕訳は「簿記のフォーム」に「勘定科目」と「金額」記入し、意味を生み出します。
- 仕訳の3ステップは、ステップ1で、2つ以上の「勘定科目」を決める。ステップ2で、勘定科目が、どのグループになるのかを確認。ステップ3で、勘定科目を「借方」と「貸方」に振り分ける。
- 仕訳は、借方と貸方の金額は、同額になります。これを「貸借平均の原則(原理)」といいます。
つぎは、第七講義です。
こちらで解説しております。
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